川魚漁師から鰻屋へ
インタビューを受けてくれたのは、三代目店主の根本正幸さんと、四代目の根本健一さんです。
Q.お店の創業はいつ頃で、きっかけがあったのですか?
A.お店の創業は、昭和38年(1963年)頃で鰻屋としては約60年(取材当時2022年1月)になります。
「川魚 根本」を営む根本さんは、古くからこの地に住んでおり、昔は百姓や川魚漁をして生計を立てていました。
明治、大正時代になると、千住の川魚問屋に、川漁師が獲った鰻や鯉を集め、卸していたという。
しかし、第二次世界大戦後は、河川の汚れから川漁業者の減少・衰退などの理由もあって、漁師兼仲買業者から鰻料理店に転業したが、店名には「川魚」の2文字を残し伝統を継いでいる。
創業当時、この辺りでは川魚を食べる習慣が少なく、畑仕事をしながら、お客様が来ると鰻を焼いていたそうで、1日数人しか来ない日もあったとか。
Q.どこかのお店で修業をした経験などはありますか?
A.「お店で修業したことはなく、家で鰻を焼いて食べていたので、調理方法も捌き方も知っていました。」
もともと鰻を含む川魚を扱っていたため、つねに身近にあり、修行の必要もなく自然と身についたとのこと。
現在、お店で使う鰻はかつて卸していた問屋さんから仕入れているので「すっかり立場が逆転してしまったよ」と、笑われていました。
問屋さんとは、四代続くお付き合いという。また、ごく稀ではあるが天然物が入荷することも。 公式ツイッターにてお店で食べられる鰻は事前に知ることができます。
鰻屋としてのこだわり
Q.鰻のタレが独特なのですが、お店オリジナルのものですか?
A.「お店で使用している鰻のタレは、先々代が考案したもので、砂糖、みりん、醤油を2〜3時間ほど煮詰めたものです。」
醤油を常にかき混ぜ続け焦げる寸前まで煮詰め、砂糖とみりんを足し入れる。工程や材料はシンプルだが細心の注意が必要とのこと。
「料理は手を抜くと味にでるから正直だよ。」
手間暇を掛けタレ作りをするのは、お客様に美味しい鰻料理を届けたいとの一心から。
使っているのは、どこにでもある調味料ではあるが、気温や湿度によって微細に工程を変えるため、レシピを教えても同じ味にはならないという。
煮詰めたタレは3〜4日間寝かせ、味を落ち着かせることでまろやかな風味になるのだそう。
また、鰻を焼くための炭にもこだわりがあり、創業当時から「紀州備長炭」を使用。調理の際に出る大量の煙で燻すように焼き上げているのだとか。
「ガスや電気でも焼けるけど、味が全く違うんだよ」と、鰻の味を知っているからこそ、味へのこだわりも人一倍でした。
鰻のための設備
「お店には鰻のための秘密があるんです」と、新店舗の隅々までを四代目の根本健一さんが案内してくれました。
Q.お店はいつ頃に建て替えられたのですか?
A.「2019〜2020年にかけて建て替えをしました。建築途中でコロナ渦になったので、建物にはいろいろな対策を講じております。」
店内にはコロナ対策としての空調・給換気設備や、席数を減らしたレイアウトなど、急遽、現在の状況に合わせた作りに。
空調設備はコロナ対策だけでなく、近隣に住まわれている皆さまへの配慮から油煙除去装置などを備え、調理中に出る煙や匂いを減らす努力もしています。
また、敷地内にには井戸を掘り、ポンプでいったん建物の屋上まで汲み上げ曝気し、調理場内の立て場へ流し続けています。
「立て場」とは、井戸水を仕入れた鰻に捌く直前までさらし、養生させ、臭み抜きをする場で、常に掛け流して使用しているのだとか。
新店舗は、まさに鰻のために作られていて、四代目から教えてもらうことは驚きの連続でした。
四代目が思うこと
Q.お客様にはどのような方がいらっしゃいますか?
A.「おかげさまで遠方から来られたり、老若男女を問わず多くのお客様にご愛顧頂いております。」
コロナ渦以前、旧店舗の時には、関東近県からのお客様が多く年齢層も高めであったとのことでしたが、新店舗になり、若いお客様も増え来店規模も全国的になってきているという。
驚かされたのは、鰻屋さんにとって一番の書き入れ時である土用の丑の日は休業しているとのこと。
理由は、「忙しすぎて満足いく仕事ができず、お客様に申し訳ないから」と儲けよりも、お客様を第一に考え、大切にしているからこそ、現在の繁盛店に成長したのも分かる気がします。
Q.これからお店を、どのようにしていきたいなどありますか?
A.「伝統を守りながら、その時その時で柔軟に対応していけたらと思っています。」
新店舗への建替えとともに、発券機の設置やデリバリーサービス、キャッシュレス決済の導入など時代やニーズに合わせた店作りをしていることも、人気店になっていった源なのかも知れません。
「仕事は楽しく、淡々とやるのが一番!」と、三代目が言っていたのが印象的でした。
あとがき
戦後の混乱期などもあり、現在の繁盛店になるまでの苦労は相当なもの。川魚漁師から飲食店への転業など、時代に合わせ柔軟に変化させることができたからこそ、現在のコロナ渦の影響も最小限に、維持し続けておられるのでしょう。
また、毎年十月には、三郷市の彦倉虚空蔵尊延命院で執り行われる、鰻供養会に参列するなど、鰻への感謝を忘れることもありません。
「川魚 根本」に多くのお客様が訪れる理由は、先代からずっと受け継がれた、お客様を大事にする心と、鰻への真摯な姿勢が垣間見られるからではないでしょうか。