茨城エリアで食べるべき蕎麦屋

茨城県の蕎麦文化は、澄んだ空気と水、そして肥沃な土地を背景に、江戸時代より「そばどころ」として発展してきました。
標高の高い山間地や水はけの良い傾斜地は、蕎麦の栽培に最適で、昼夜の寒暖差が蕎麦の豊かな風味を育みます。
歴史を振り返ると、水戸藩主・徳川光圀が信州から種を取り寄せて蕎麦の普及を進めた逸話や、米の代用として農家の間で蕎麦が大切に受け継がれてきた事実があり、地域の食文化として深く根付いてきました。
茨城が誇る「常陸秋そば」は、昭和53年、常陸太田市赤土地区の在来種を厳選のうえ品種改良して誕生したブランド品種で、今や県内で流通する蕎麦のほとんどを占めています。
芳醇な香り、しっとりした甘みと粒ぞろいの美しい実は、多くの蕎麦職人や全国の蕎麦通を魅了し続け、東京都内の有名店でも使用されるほどです。その品質を守るため、種の管理も徹底され、変わることのない伝統と美味しさが受け継がれています。
茨城の蕎麦は、豊かな歴史と風土への誇りを湛え、今日も多くの人々に愛され続けています。
慈久庵

慈久庵は2002年に現店主・小川宣夫氏が茨城県常陸太田市に移転し開業した、全国屈指の蕎麦の名店です。
小川氏は東京・本むら庵での修業を経て1990年に阿佐ヶ谷で「慈久庵」を開業、その後郷里の常陸太田で新たに店を構えました。里山を再生する思いから、自ら焼き畑農法で育てた「常陸秋そば」を手刈り・天日乾燥し、一年間寝かせて石臼で自家製粉する――その工程すべてにこだわりが貫かれています。
店舗は、地元の曲り家と欧州の田舎家を融合させた茅葺屋根の美しい建物で、四季の里山を一望できるロケーション。木の温もりと静けさ、自然光が差し込む心地よさの中、そばを待つ時間そのものが特別な体験となります。
仕込みから給仕・片付けまで全てを店主一人で行うスタイルも相まって、温かなもてなしの心が感じられる一軒です。

そばは粗挽きで、粒感の違いを楽しめる独特の香りと喉ごしが特徴。畑ごとに管理した玄蕎麦を使い分け、粉の違いで織りなす表情の豊かさが味わい深いです。
名物の「古式けんちんそば」は地元産の有機野菜を使ったけんちん汁に茹で置きそばを浸し、お茶漬けのように“かっこむ”スタイル。濃厚な出汁と野菜の旨み、粗挽き蕎麦の融合が絶妙で、どこか懐かしい滋味に心が和みます。
風情あふれる茅葺屋根の建物は、里山の自然と調和し、木の温もりと静寂に包まれる特別な空間です。料理と空間に込められた店主の思いとぬくもりを、手間暇かけた一杯のそばで感じ取れる――慈久庵は、訪れる人の五感と心に深く余韻を残す、唯一無二の蕎麦店です。
にのまえ

茨城県の笠間市にひっそりと佇む「にのまえ」は、2011年にオープンした、茨城の美食を深く追求し続ける日本料理店です。
店主の並々ならぬ情熱と技術が光るこの店は、予約が困難なことで知られるほどの人気を博し、地元の食通たちからも絶大な信頼を集めています。
「にのまえ」の最大の特徴は、何といっても「地産地消」への徹底したこだわりで、豊かな自然に恵まれた茨城の旬の食材を最大限に活かし、それを最高峰の日本料理へと昇華させています。

メニューはおまかせコースのみ。訪れる度に内容が変わる献立は、その日の最高の食材で構成され、季節の移ろいや店主のインスピレーションが反映されます。一品ごとに驚きと感動があり、何度訪れても新しい発見があります。
伝統的な日本料理の技法をベースにしながらも、現代的な感性を取り入れた独自の料理が特徴です。シンプルながらも洗練された盛り付けは、まるで芸術品のようで、一切の妥協を許さない丁寧な仕事ぶりが、食材本来の旨み、香り、食感を際立たせます。
- にのまえ
- 蕎麦・日本料理
- 茨城県水戸市末広町3-7-15
- 水11:30 – 14:00L.O. 13:40金・土・日11:30 – 14:00L.O. 13:4017:00 – 20:00L.O. 19:40
- 月・火・木
- 1000円〜1999円
村屋東亭

茨城県鉾田市にある「村屋東亭」は、大正7年(1918年)創業の老舗蕎麦店「村屋」を前身とし、1983年に現在の店名でオープンしました。
店主の渡辺維新氏は、名店「一茶庵」の創始者・片倉康雄氏の教えを受けて蕎麦改革に取り組み、手打ち蕎麦の技術を磨き続ける職人です。
渡辺氏は蕎麦職人になる前は東京メトロの乗務員をしており、妻の実家である村屋に婿入りし蕎麦の道へ転身しました。村屋東亭は、常陸秋そばの普及に尽力した店としても知られ、香り豊かで弾力のある「外一」蕎麦(蕎麦粉10に小麦粉1の割合)が特徴です。

店では、もりそばや霙そば(温かい豆腐と辛味大根を冷たい蕎麦にのせた江戸料理の再現)が人気メニュー。
蕎麦は繊細な細打ちで、歯ごたえよくのどごしも抜群。つゆは醤油の酸味を生かしたキレのある味わいで、出汁は利尻昆布や本枯節を使用し味に妥協がありません。
薬味には辛味大根と極細切りネギが添えられ、蕎麦の味を引き立てます。
慈久庵鯨荘 塩町館

茨城県常陸太田市の「鯨ヶ丘」と呼ばれる旧市街地に佇む「慈久庵 鯨荘 塩町館」は、その重厚な建物と極上の蕎麦が織りなす、格別な空間が魅力の蕎麦店です。
この店の建物は、明治20年(1887年)に建てられた旧太田銀行をリノベーションしたもので、築100年を超える歴史そのものが最大の魅力です。
一歩足を踏み入れると、高い天井と見事な梁がむき出しになった吹き抜けの空間が広がり、和モダンでありながらノスタルジーを感じるクラシカルな雰囲気に包まれます。まるでタイムスリップしたかのような重厚な空気感の中で、ゆったりと蕎麦を味わう贅沢な時間が流れます。

店主は、県内屈指の蕎麦の名店「慈久庵」の小川宣夫氏に師事した実力派の職人です。その確かな技を受け継ぎ、地元の素材にこだわった蕎麦と饂飩を提供しています。
「常陸秋そば」という玄そばの最高峰を、香りを引き出すために特殊な石臼で粗挽き。その蕎麦は、煌めくほどのツヤを持つ極細麺が特徴です。人の手でしか切れないという職人技が光るこの細麺は、香り高く、喉越しが格別だと多くのファンを魅了しています。
木挽庵

茨城県ひたちなか市にある「木挽庵(こびきあん)」は、1992年に創業した、ご夫婦二人で営む歴史ある手打ち蕎麦の名店です。
趣ある古民家風の建物や内装、小物に至るまで、全てが店主の手作りでできていることです。入り口の網笠門や、蕎麦を盛るせいろまで、木のぬくもりを感じる木製品は、店主のDIYへの愛と技術の結晶。
店内は、まさに「木挽庵」という名にふさわしい、素朴ながらも洗練された和の空間を演出しており、訪れる人々に「ほっとくつろげる時間」を提供しています。また、器には笠間焼の作家の作品を使用するなど、地元の文化を大切にする心遣いも感じられます。

蕎麦へのこだわりも深く、「木挽庵」の蕎麦は、蕎麦打ち名人のような完璧な美しさや硬さを追求したものではありません。店主が目指すのは、「かつて田舎の母が打っていたような、なんとも言えない絶妙な蕎麦」。その味わいは、田舎の素朴さと優しさに満ちています。
「木挽庵」は、ご夫婦二人で丹精込めて蕎麦を用意しているため、長時間待たせる可能性があることを正直に伝えつつも、「時間に余裕のある方のみお待ちください」と張り紙で促すなど、顧客への誠実な姿勢が伝わります。また、全席禁煙で落ち着いて食事ができる環境が整えられています。
蕎麦処 みかわ

茨城県水戸市にある「蕎麦処 みかわ」は、地元の食通からも厚い信頼を寄せられる蕎麦の名店です。
「蕎麦処 みかわ」の最大の魅力は、その蕎麦への並々ならぬこだわりにあり、蕎麦粉は秋に収穫された県内産の常陸秋蕎麦を中心に、玄そば(殻付きの実)のまま一年分を買い付けます。これを品質が変わらないように自社の低温倉庫(マイナス1度)で氷温貯蔵するという徹底ぶりです。

毎日使う分だけ殻を剥き、店頭の石臼で自家製粉します。石臼でゆっくりと粗挽きにすることで、蕎麦の風味を損なわず、香りが強い粉に仕上げています。
この粗挽きの粉を使用し、蕎麦粉十に対し、つなぎ(小麦粉)を一の割合で打つ「外一そば」を提供。これにより、のどごしだけでなく、噛むほどに広がる蕎麦本来の豊かな風味を最大限に楽しむことができます。
手打ちそば 蕎山

茨城県守谷市に店を構える「手打ちそば 蕎山(きょうざん)」は、平成17年(2005年)にオープンして以来、守谷でトップクラスの人気を誇る蕎麦の名店です。
「そば道場久慈川翁」を立ち上げた経験を持つ店主が、十年の行脚を経てたどり着いた境地を、この店で表現しています。
お店の雰囲気は、蔵をイメージした古民家風の一軒家で、趣きがあります。天井には立派な柱が交差し、和の落ち着いた空間が広がっており、まるで時間がゆったりと流れているかのような居心地の良さです。
店内の調度品やせいろの一部は店主の手作りであるとされ、空間の隅々までこだわりと温かさが感じられます。

厳選した常陸秋そばを主に使い(夏季はキタワセ種)、素材の旨さを凝縮した細くしっかりとしたコシが特徴の二八の江戸蕎麦を提供しています。
蕎麦は香りが豊かで、啜るとフワリと鼻に抜け、一口目から感動を呼ぶ美味しさです。
蕎麦汁は、節の風味が効いた甘さ控えめの江戸前風の味わいで、蕎麦の風味を一層引き立てる名脇役として完璧なバランスを保っています。
鬼怒川 竹やぶ

茨城県守谷市の鬼怒川沿いにひっそりと佇む「鬼怒川 竹やぶ」は、1996年に開業した、そば通の間で知られる名店です。
千葉県柏の伝説的な名店「竹やぶ」で長年修業した店主が、本家と同じく水のある風景にこだわり、この静かな地を選びました。野趣と上品さが共存する極上の手打ち蕎麦と、自然に溶け込んだロケーションが最大の魅力です。

蕎麦の品質を最重要視し、茨城、長野、北海道など各地の契約農家から質の良い玄そばを仕入れています。その日に使う分だけを石臼で自家製粉することで、蕎麦本来の豊かな香りと風味を最大限に引き出しています。
つゆは、本節でとった出汁と「かえし」を合わせてから5日ほど寝かせたものを使用。時間を置くことで醤油の角が取れ、まろやかで深みのある味わいになり、蕎麦の風味を邪魔せず引き立てます。
蕎麦への探求心と、類稀なロケーションが融合した「鬼怒川 竹やぶ」は、わざわざ足を運ぶ価値が十分にある、特別な蕎麦体験を提供してくれます。
Z庵

茨城県結城市の閑静な住宅街にひっそりと佇む「Z庵」は、県内随一の評判を持つ隠れ家的な蕎麦屋です。その徹底した蕎麦へのこだわりと静かな雰囲気で、県内外の蕎麦好きから熱烈に支持されています。
「Z庵」は、目立つ看板がなく、「常陸秋そば」の幟と、店主が愛する日産フェアレディZが目印という、非常にユニークな外観です。

「Z庵」最大の魅力は、店主の氏家さんが自ら畑で全ての玄蕎麦を育てるという、類を見ないこだわりです。
蕎麦の品種は常陸秋そば。玄蕎麦の殻を剥いた丸抜き、または挽ぐるみ(全粒)を、毎朝店頭の石臼で丁寧に手挽きしています。この「土作りから手掛ける」姿勢が、他では味わえない、蕎麦本来の強い香りと風味を生み出しています。
提供される蕎麦は主に十割蕎麦ですが、ボソボソ感がなく、コシのある歯ごたえと、もちもちとした食感が特徴です。淡緑色の繊細な麺は、見た目にも美しく、食欲をそそります。
猪口才

茨城県石岡市にある「猪口才(ちょこざい)」は、その名前からは想像できないほど本格的で、蕎麦へのこだわりが深い名店です。創業年は明確ではありませんが、長きにわたり地元で愛され、茨城県の蕎麦ランキングでトップクラスの評価を得ています。
「猪口才」は、蕎麦専門店農家から仕入れた厳選素材と、店主の確かな技術が生み出す一杯が最大の魅力です。その味のこだわりは、多くの蕎麦通を唸らせています。

「猪口才」の蕎麦は、蕎麦の風味と食感を追求した結果にたどり着いた独自の製法が光ります。蕎麦専門の農家から仕入れた丸ヌキ(そばの実)を、毎朝店頭の石臼で粗めに自家製粉しています。この「挽きたて」の鮮度が、蕎麦の強い香りとのどごしの良さを生み出す秘訣です。
通常の二八蕎麦(蕎麦粉八割)よりも蕎麦粉の比率が高い九割(または外一、蕎麦粉10に対しつなぎ1)の蕎麦を提供しています。つなぎが少ないにもかかわらず、ボソボソ感がなく、コシがあってアルデンテのような食感を兼ね備えた、絶妙な仕上がりです。
- 猪口才
- 蕎麦・日本料理
- 茨城県石岡市東石岡5丁目2-36
- 11:30 – 15:00L.O. 14:3017:00 – 21:00L.O. 20:30
- 不定休
- 1000円〜1999円